かなり昔の話ですが、母の知り合いに頼まれ、高校受験前の男子中学生の家庭教師をしたことがあります。
人に何かを仕事として教えたことはなく、私にできるのか?しかもそんな大事な時期に…事情をきくと、高校受験を目前にして塾が合わず、家庭教師もなかなか合う人が見つからず、と孫を心配したおじいさんからの依頼でした。聞くからに手強そうでしたが、知り合いということもあり、むげに断れない状況で引き受けることにしました。
期間は確か3か月ぐらいの、まさに受験直前。当時私は20代前半でしたが、高校受験勉強の詳細を覚えているわけもなく、しかも短期間ということで、先ずは本屋に行き、中学総復習だけど薄めのテキストを買い、ザっと目を通しました。自分の受験の時より集中して取り組んだんじゃないかな、と思います。人間は追い込まれると、自分が思っている以上の力が出るみたいですね。
初めて彼に会う日、確実に私のほうが緊張していました。いざ会ってみると、茶髪にピアスのヤンチャな印象で、打ち解けられるか心配しました。しかし、そんなことを心配している余裕もないので、とりあえず彼の実力をはかるべく、テキストの付録の確認テストをしてもらい採点し、苦手なことをきいて、今後のスケジュールを立てることにしました。
無口な彼から色々と聞き出し、時には好きな音楽などを質問したりして(脳内フル回転で話を合わせ)、先ずは話しやすい空間づくりに力を注ぎました。
勉強に苦手意識を持っている彼に少しでも問題を解く面白さを味わってもらうことに重点を置き、難しい発展問題はこの際、放棄することにしました。あとは、復習を徹底しながら、公式、年号など、基礎を固め(時には自分の頭の中でしか再生したことのない、オリジナルメロディー付きの覚え方を特別に披露したり)、必死の3か月でした。
結果、彼は志望校に合格し、無事、高校生になったと聞いて、心底ホッとしました。がむしゃらに走り抜けた3か月、ヤンチャな彼とも徐々に仲よく!?なり、お互いに友達にいないタイプが新鮮だったのか(私は昔から見た目が地味です)、面白いやり取りもありましたので、少し思い出してみますね。
・打ち解けるために質問したはいいが、全然詳しくないシンガー「BOA」が好きだと言われ、ここは「よく知らないですね~」なんてしらけたことを言えるわけもなく、咄嗟に「BOA」の中で一番好きな曲を聞いてしまい、さらに自らを窮地に追い込み、しかしたまたま聴いたことのある曲で、一人勝手に大逆転しました。帰宅後に「BOA」について調べる私は、良い先生でした。
・初日の地理の実力小テストにて。確か4択の問題でした。「次の中から国名ではないのを答えなさい。①モンゴル②バチカン市国③アフリカ④ネパール」みなさんはおわかりでしょうか?正解は③です。ちなみに彼は不正解でした。受験直前です。私が採点後に正解を伝えても、腑に落ちない様子の彼を見て、正直私はうろたえましたが、それを悟られたり、鼻で笑いながら説明したら全てが終わることを肌で感じた私は、「アフリカが大陸名であること」を丁寧に説明し、これから始まる人生初の家庭教師生活が前途多難であることを覚悟しました。
大変ではありましたが、人に教える事がちょっと自分に向いているかも、とはじめて気づいた貴重な体験でした。後にこの経験が私の人生を少し面白い方向に導くことになるとは、この時はまだ知る由もなく…(その話はまた後日)教える為に先ずは自分がきちんと理解する必要がある、伝え方次第で相手の理解度に大きく差が出る、など当たり前のことだけど大事なことに気づかされました。